短歌人夏季集会(2)
今日は終日歌会で、終わりにさよならパーティ。
歌を作る上での基本的な留意事項を、例を引いてあげておこう。いずれも小池 光の指摘である。
老人の死にたいは嘘かも知れぬ義母(はは)の病への強
(したた)かさみれば
*下句の一例をもって老人全体に一般化しているが、これは
やってはならない。「義母(はは)の死にたいは嘘かも知れぬ」
とすべき。
カレンダーの本日の欄に夏至という簡素な文字の黒光りして
*結句の宙ぶらりんはダメ。「黒光りする」「黒光りすも」と、
短歌は責任を持って言い切るべし。短歌は言い切りの詩形
である。
室温を二十三度に保つべくエアコンの吐く風は何度か
*この例のように、発想の盲点をつくハッとさせる歌にすべし。
次に、私もそれぞれに一票を入れたが高得点の歌を四つあげておく。
ひとすぢの身の簡明もて滑らかに池泳ぎゆくはつなつの蛇
蒔田さくら子
生きていたことはきっぱり忘れろとほうれん草の根を切り落とす
滝田恵水
廃坑の山蔭の町今の世に義肢製作所ありて明かりをともす
森脇せい子
うたひつつ修学旅行の一団は海の底へとはこばれゆきぬ
小池 光
最後に今日の嘱目詠を。
緑陰の朝にひらく蚤の市
逗子駅の朝のベンチは涼しけれしまらく座り蝉の声聞く
朝早き夏のひと日の歌会や頬杖つきて眠気に耐ふる
砂利敷ける水深浅き池に棲むわがもの顔の若き緋鯉は
鳶あまた夏空に舞ふ丘の上に百四十人の歌人つどへり
丘の上の国際村に短歌人百四十人が歌読みあへり
昼食のマーボー丼食ひおはりソファに背中をあずけて眠る
更年期すぎてあの世に近づくと笑ひあひたり熟年歌人