天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

「短歌研究」新人賞(続)

 選考委員の岡井隆が評価要素として、
  ①発想・テーマ ②技術点 ③情緒点
を挙げているが、既視感のある歌、どこかで見た言い方はよくない、としている。
 選者の誰彼が巧い歌と評価した作品の例を、新人賞受賞者と次席の作者から拾ってあげておく。


野口あや子(新人賞)作品より
  青春の心臓として一粒のカシスドロップ白地図に置く
  みしみしと夕立過ぎてライオンが飼い慣らされるようなさみしさ
  ヴァンパイアの眼をした人と過す午後鉄観音茶きりきりと飲む
  みずいろの風がまぶたを撫でるからゆっくり握る朝顔の種
  過去ばかり話す小石をポケットから出しておずおず言うさようなら


胗澤美晴(次席)作品より
  青空をとおざかる藤の花房のほそぼそときみをおもいつづける
  月光の折れる音する 愛せないくらいやさしいひとの踵に
  早足で来る十二月教科書の俳句のなかに雪を降らせて
  前髪の触れあわぬ距離にきみはいて無菌操作のあやうさを言う


 作品は無記名で選者に回されるので、合評の場で、作者の年代が話題になる。若い谷村はるか(三位入賞)が、六十代か七十代に見られているのが愉快である。