天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

曼珠沙華

成就院の彼岸花

 彼岸花の咲き出す早さには、目を見張るものがある。テレビがどこそこで咲いていると告げても身近で見かけないとピンとこないが、気づいたときはもう咲いている。今日がまさにその日であった。流鏑馬を見に出かけた鎌倉では、赤、白、黄色の彼岸花に出会った。
 去年も列挙したと思うが、彼岸花には様々な呼び名がある。曼珠沙華死人花、天涯花、捨子花、幽霊花、狐花、三昧花、したまがり など。東南アジアの特産だが、わが国に渡来した時代ははっきりしない。芭蕉の俳句には出てこない。

     まんじゆさげ蘭に類ひて狐啼   蕪村
  現実の暴露のいたみまさやかにここに見るものか曼珠沙華のはな
                     佐佐木信綱


     彼岸花鉄砲宿にバスを待つ
     尼寺や墓地には白き曼珠沙華
     秋ともし地蔵和讃に目をこらす
     お地蔵の前にゆれざり秋ともし
     無患子の実は青きまま秋の風
     白萩を掻き分けてゆく奥之院
     鎌倉やここにも白き死人花
     秋風や流鏑馬神事見ずおはる


  お大師の銅像めぐりむつみあふ黒き揚羽に秋ふかみかも
  無患子の風にふかるる本堂に地蔵和讃をながめてゐたり
  流鏑馬を見むと来にける鎌倉に人群れたればわが遠ざかる