天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

アニミズムの観点

 短歌を読み解く際に必要な知識は、レトリックだけではない。作品が作られた時代状況、社会現象、文化などを知っておくことである。例えば、万葉集の鑑賞の仕方。『和歌の本質と表現』(勉誠社)の中で、岡野弘彦は、庶物霊信仰(アニミズム)の観点を強調している。古代伝承の中の言葉を、現代風に自然に対する写実的描写として合理的に解こうとすると、無理な誤解が生じる、と説く。万葉集巻一の巻頭に次ぐ舒明天皇作と伝える大和の国見歌について、「とりよろふ 天の香具山」のとりよろふは、円満具足したとか、都に近いとかいう解釈よりも、聖なる魂のよりつく山と見るのがふさわしい、と説く。また、「国原は 煙立ち立つ」の煙は、炊飯の煙と見るのは後世風な合理解であって、本来は国ぼめの呪言と理解すべき、と説く。
 万葉集に関しては、岡野より若い万葉学者・歌人の佐佐木幸網は、当時は現代人が思うよりは、案外便利であったと考える。旅をするにしても、国道、駅舎は整備されていた。歌に出てくる文言は、形式上・慣習上から使われることがあることを考慮すべき、と考える。
 ふたりの意見は別に矛盾している訳ではないが、一首の短歌を鑑賞することの容易ならざるを思う。

なお、岡野弘彦の文章は、大変読みやすいことを、ここでも感じた。以前、同じ著者の『折口信夫伝』を読んで感心したのであった。