天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

塚本邦雄・男の歌

 塚本邦雄の全歌集を読んで気づくことは、いくつもの切口があって、それぞれについて面白い評論が書けそうに思えることである。聖書、馬、犬、山川呉服店 ・・・・等々。但し、聖書に関わる歌を論じるには、聖書の内容について相当深い理解を必要とする。
 「歌壇」十一月号で岩田正が、塚本邦雄の男の歌について興味深く論じている。以下はその要約と引用歌の数例である。


 「塚本のうたう男は、職業とか階級とか、社会的な位置に全く関係ない。 ・・・ 働く人間、いわゆる労働者階級に属する男を、その肉体を賛美した歌が多い。」

  わがために一塊の海鞘きざまれて茜さす一身味方無し
  無精卵から生まれし鳥がいつよりかうら若き火夫の胸毛にやどり
  娶りちかき漁夫のこころに暗礁をふかく秘めたる錆色の沖
  銅色に壁塗り終へて春ゆふべ身のいましめを解く塗装工
  君と貴様のけぢめあやしき冬ひでり恍惚として檸檬くされり
  柔道三段望月月兵衛明眸にして皓歯一枚を缺きたり