菊
菊の季節である。靖国神社境内では、秋の例大祭向けに菊花展が開かれている。
大輪の黄菊白菊奉納す「富士の輝き」「東海の真」
百科事典によると、中国に自生するチョウセンノギクとシマカンギクとの交雑に由来し、日本には奈良時代に渡来したという。菊の栽培は江戸時代に発達し多くの品種がつくられた。梅・竹・蘭とともに四君子のひとつ。なお寺の庭では、秋明菊をよく見かけるが、これはキク科でなくキンポウゲ科の多年草である。
菊は古来、紋章に使われたが、皇室の紋章になったのは鎌倉期以後。明治四年以降は、皇室以外での菊花紋の使用が禁止された。菊を詠った歌を3首あげておく。
久かたの雲のうへにて見る菊はあまつ星とぞあやまたれける
古今集・藤原敏行
霜をまつ籬の菊の宵の間に置きまがふいろは山の端の月
新古今集・宮内卿
にくむべき詩歌わすれむながつきを五黄の菊のわがこころ踰ゆ
塚本邦雄
山門にカンバスかまへ冬桜
アオサギの姿勢映すや秋の池
秋風や鷺佇める虎頭岩
山水に得失なしと鵙の声
笹子鳴く岩船地蔵亀ヶ谷
柏槙が四隅に立てりほととぎす
笹子啼く実朝政子の墓の前
爲相の墓に臨むや鵙日和
縁遠くなるばかりと言ひ墓洗ふ鵙高啼ける鎌倉の谷戸
足ぶらぶら弁天堂の縁側に黒き眼鏡の外つ国の女
洪鐘の撞木に垂るる紅白の帯ふるびたり血染めと見えて
扇ガ谷浄光明寺に骨うづむ定家の孫の冷泉爲相
大槙の梢にヒヨドリ鳴くきけば山門不幸の浄光明寺
歌人をいざなふ秋の壽福寺の崖にうがてる実朝の墓