天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

中七の切字「や」

 元禄期の古俳句構造の典型のひとつに、中七に切字「や」を使うパターンがある。柴田宵曲『古句を観る』にも初句の切字「や」についで頻出する。

     菜の花のふかみ見するや風移り
     菜畠に藪の曇りや雉子の声
     江戸留守の枕刀やおぼろ月
     踏みなほす新木の弓やはるの雨
     魚懸にあたまばかりや春の雨
     にくまれてたはれありくや尾切猫
     
 次のように「や」が中七の途中に入り、句割れを起こす例もある。

     鳴さかる雲雀や雨のたばね降
     はるの月またばや池にうつる迄
     芥子の花咲や傘ほす日の移り


なお、先にあげた切れ+「〜かな」のパターンの補充として、初句切れ+「〜かな」の例をあげておく。

     湯殿出る若葉の上の月夜かな
     *もちろん若葉が湯殿を出るわけではない。作者が湯殿を
      出たら、若葉の木々の空に皓々と月がかかっていた、と
      いう趣意である。