天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

境川

 特定の河川が有名になるには、それを取り入れた小説なり映画なり詩歌が有名になることが条件になる。例えば、神田川のように。最上川のような大河でさえ、芭蕉や茂吉の短歌によって名声を獲得した面がある。あるいは、愛嬌あるゴマフアザラシが棲みついてテレビで紹介されてもよい。
    さみだれをあつめて早し最上川  芭蕉
    神田川祭の中をながれけり    万太郎


 河口に江ノ島を見る境川を地図で遡ると、町田市や川崎市麻生区で支流に別れ水源になる。なんの変哲もなく茶の間の話題にもなったことのない川である。


     秋風に幟はためく「しらす丼
     秋風の釣果を競ふ魚拓かな
     

  繋留のクルーザの数おびただし境川辺の鵠沼あたり
  両岸に数珠つなぎせるクルーザ秋の日射しの川浪に揺る
  週末も動く気配はなかりけり数珠つなぎせる岸のクルーザ
  川縁に住めばもちたきクルーザ強制撤去の不法繋留
  釣り糸を垂れて食うぶる握り飯クルーザ持たぬ若き夫婦は
  街灯のポールにとまる鳶のゐて岸の昼餉の隙を狙へり
  川縁に聞くのど自慢鉦ひとつ「川の流れのように」で終る
  釣り糸を納めて話す仲間どち携帯ラジオは演歌流せり
  浮びきてとび立ちにけり鵜の鳥は川面の空を川上にゆく
  客のせて「べんてん丸」は往復す河口の岸と江ノ島の岸
  江ノ島の空を犯せば鳶出でてハングライダーをとり囲みたり
  悠然ととぶゆりかもめ 頼りなく飛ぶ鵜の鳥と岸に見比ぶ
  ふた竿のウキ見てすごす日曜日横のラジオが演歌を流す
  釣り人のウキみてをれど釣れざれば首をほぐしていざ帰りなむ
  早朝の客を集めて出航す河口にならぶ釣舟の宿
  地魚と地ビール出せる船宿に釣果自慢の声たかまれり

  

 川の歌については、日をあらためて書いてみたい。