助詞の用法その他
先週の金曜日は、兵庫県の三田に出張し、その機会を利用して翌土曜日は箕面に遊んだが、出張に際して、持って行く読み物に困ることがある。今回は本棚に挟んであった角川「短歌」2000年5月号別冊付録の「夏の歌を楽しむ」を持って出かけた。かなり古いが、一度も目を通していなかった冊子である。新幹線の中で読み終わった。三つ気づいたことを次に書いておく。
1.助詞の巧妙な使い方
青山を横切る雲のいちしろく吾と咲(ゑ)まして人に知らゆな
大伴坂上郎女
夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ
大伴坂上郎女
*これらの「の」は比喩を指す。
隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴く晩蝉
(ひぐらし) 大伴家持
*「み」の用法
二つゐて郭公どりの啼く聞けば谺のごとしかはるがはるに
島木赤彦
大いなる空振りありてこれならばまだ好いていよう五月の男
梅内美華子
*両者ともに「て」の用法
2.藤原良経と式子内親王の似たつくりの歌
うちしめり菖蒲(あやめ)ぞかをるほととぎす鳴くや五月
(さつき)の雨の夕暮 藤原良経
ほととぎすそのかみ山の旅枕ほのかたらひし空ぞわすれぬ
式子内親王
3.主語は誰か。次は斉藤茂吉の歌であるが、蟻を殺したのは誰か?
さるすべりの木の下かげにをさなごの茂太を率つつ蟻をころせり
文の構造からは、茂太を率つつ作者茂吉が、蟻を殺したと読むの
が尋常であろう。だが、茂吉の「作歌四十年」によると「童子の行
為が、そのままこの歌言葉になった」とのことであり、蟻を殺した
のは、をさなごの茂太であるという。