天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

花曇

 千鳥ヶ淵や九段周辺は、今桜の満開である。靖国神社参道両側には、屋台がずらりと並び、昼はOLの昼食を夜は会社帰りの宴会の食事を提供している。屋台の客は、バスでやってくる観光客よりも学生や会社員の方が多いように見える。
 四月になったので靖国神社拝殿社頭の掲示も入れ替わった。リーフレットには、明治天皇の次の御製が書かれている。        
    身をすてて いさををたてし 人の名は
    国のほまれと ともにのこさむ


 今回の遺書の主は、昭和十九年十一月、比島方面にて戦死した陸軍の兵士、享年二十四歳である。


  弟に希望を大きく持てと言ひ兄の分まで尽せと言へり
  簡潔に漢字カタカナ並びたり短き遺書の陸軍軍曹
  「女ハ心第一デス」とさとしたり妹ふたりの名前を書きて
  実行力強きが日本男児ぞと弟をはげます兄は二十四
  神として祀られたればはろばろと花の九段にうから集へり
  夕されば彼も宴に加はらむ花咲き満てる靖国の庭


      赤煉瓦駅舎出づれば桜かな
      丸の内花見かねたる昼休み
      花曇社頭掲示の遺書を読む
      「荒城の月」舞ひ納む花の宴