天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

芭蕉の実像?!

 俳句や短歌の月刊雑誌を買うついでに、文芸コーナを見回していたら、嵐山光三郎著『悪党芭蕉』という強烈な表題の本が目に付いた。読売文学賞泉鏡花文学賞をもらっている。衝動的に買ってしまった。通勤電車の中で読み始めたが、めっぽう面白い。論理明快、文章の切れがよいので読み易い。はじめの箇所でわかりにくくても、後で追加説明が入るので合点がいく仕組みになっている。
 俳聖・芭蕉は後世の弟子たちや信奉者が祭り上げた虚像であった。「芭蕉は大山師だ」という芥川龍之介の言葉から書き起こす。芥川以前に、正岡子規芭蕉の俳句の過半が悪句駄句だと批判していた。
 江戸日本橋で、弟子を持ち実力派として頭角を現しながら、何故突然出家したような形で深川に隠遁したのか。弟子たちが芭蕉から離反したり、高弟たち同志仲が悪かったり、芭蕉の死後、蕉門は空中分解し、我こそは芭蕉を継ぐものだといい始めた。何故か? また、この本で『猿蓑』の中の「夏の月」を例に、歌仙の鑑賞の仕方を簡潔に解説してくれているのが大変役に立つ。
 ちなみに著者の嵐山光三郎、本名、祐乗坊 英昭(ゆうじょうぼう ひであき)は、1942年生まれの多才な文士である。小説家・詩人・歌人俳人・エッセイスト などの肩書を持つ。