天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

飯田龍太の位置づけ

 角川「俳句」五月号は、二月二十五日に八十六歳で亡くなった飯田龍太の追悼大特集を組んでいる。評論ではなく大方が思い出話なので、特筆するような文章はない。ただ、びっくりしたのは、長谷川櫂が「古今名句十句選」を出していること。次の十句である。


      古池や蛙飛びこむ水の音        芭蕉
      行春を近江の人とおしみける      芭蕉
      秋深き隣は何をする人ぞ        芭蕉
      遅き日のつもりて遠きむかし哉     蕪村
      去年今年貫く棒の如きもの       虚子
      くろがねの秋の風鈴鳴りにけり     蛇笏
      外にも出よ触るるばかりに春の月    汀女
      降る雪や明治は遠くなりにけり     草田男
      おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ  楸邨
      一月の川一月の谷の中         龍太


 長谷川の評価基準というか指標については何も書いていないので、理由を知る由もないが、特に龍太の句は古今の名句と並べてみても、むしろ、ずば抜けている感じがするという。言われてみれば、中七の句割れ以外、何の変哲もない写生句のようだが、シュールでかつ揺るぎないリアリティが立ち現れてくる。長谷川櫂の着眼に感心した。