天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

岬と丘と

江ノ島: 恋人の丘

 日本全国に「恋人岬」や「恋人の丘」はどれくらいあるのだろう。
「恋人岬」と言えば、結婚を反対された二人が海に身を投げたという悲恋にちなむグァム島の観光名所。新潟県柏崎市にある恋人岬にも悲恋の伝説がある。ここは佐渡弥彦米山国定公園のなかでも、福浦海岸を一望できる景勝地で、晴れた日には遠く佐渡を望む夕日の名所。他に静岡県土肥町をはじめ、神戸市垂水区和歌山県すさみ町など各地に「恋人岬」が誕生している。
次に、「恋人の丘」であるが、宮崎県東臼杵郡美郷町南郷区には、韓国の「百花亭」を再現した小高い丘がある。韓国との友好の証として届けられた「絆の鐘」と呼ばれる一対の鐘がかかる。蒲郡市三谷町の弘法山の頂上は、眼下には三河湾、後方には弘法大師の像という絶景ポイントであるが、この地に「ラバーズヒル(恋人たちの丘)」がオープンした。
 わが散策ルート江ノ島にも「恋人の丘」があり、龍恋の鐘がかかる。元は龍野ヶ岡といった。


      佇めば直ぐに啼き止む行々子
      島井戸の跡の石碑や花大根
      護摩行や人の形の焔立つ
      参道の病葉を掃く奥津宮
      参道の軒下うれし初つばめ
      葦切の声にいらだつ雀かな     
      若き枝にからまり垂るる藤の花
      断崖の風に現る春の鳶
      夏潮が洗ふ渚の白き魚
      葉桜の下に並べる唐津かな


  金網の倒るるまでに吊るしたるあまた錠前恋人の丘
  四阿(あずまや)の柱に書ける女男の名と日付見てゐる雨、
  水曜日


  鵜の鳥の数かはらざり江ノ島の行きと帰りに見し岩の上
  閉ざしたる店多くあり水曜の断崖の藪よしきりが啼く
  南国の色おほらかに咲きにけり平戸つつじと霧島つつじ
  右手には沿岸警備の船浮きて定置網見ゆ江ノ島の沖
  若葉萌え枝ひろげたる少年樹うすむらさきの藤からみつく
  五穀絶ち木の実に生くる木食の行場窟ありこの谷底に
  夕暮の港へ帰る釣り船にはつか聞こゆる龍恋の鐘


 「恋人の丘」は恋が成就する場所であり、「恋人岬」は恋が悲劇に向うところか。語感にもそんな気配がある。丘は小高い土地でこんもりしている。岬は陸地の先端で断崖がある。もちろん現代の観光名所は、岬であろうと丘であろうと、恋が成就することで人を集めるのだ。