天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

韻律分析

 声に出して読んで快い歌の韻律はどうなっているのだろう。実はこの分析は、大変奥が深い。
納得できるような理論を知らない。韻律は響きである。日本語においては、品詞単位の母音のリフレインが響きのベースになる。品詞ごとにブランクを入れ、撥音をnで、促音をブランクで表示することにして、幾つかの例を分析してみよう。品詞の先頭の母音と子音をアルファベットの大文字にしておく。

  白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり
                        若山牧水
  SHiRaTaMa No| Ha Ni SHiMiToHoRu| AKi No Yo No| SaKe Ha
  SHiZuKaNi|NoMu BeKaRi KeRi
  iaaa o| a i iioou| Ai o o o| ae a iuai| ou eai ei


  春の夜にわが思ふなりわかき日のからくらなゐや悲しかりける
                        前川佐美雄
  HaRu No Yo Ni| WaGa OMouNaRi| WaKaKiHi No| KaRaKuReNaI
   YaKaNaSHiKaRi KeRu
  au o o i| aa Oouai| aaii o| aaueaIa| aaiaieu


  函館の青柳町こそかなしけれ友の恋歌矢ぐるまの花
                        石川啄木
  HaKoDaTe No| AOYaGiCHo KoSo| KaNaSHiKeRe| ToMo No
   KoIUTa|YaGuRuMa No HaNa
  aoae o| AOaio oo| aaiee| oo o oIUa|auua o aa


  あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ
                        永井陽子
  AHaRe SHiDuKaNa|ToYo No HaRu|GaRiReo No|BooEnKYo Ni|
  HaNaBiRa NaGaRe
  Aae iuaa|oooo o au|aieo o|ooEnoo i|aaia aae


 五句のそれぞれの句の頭あるいは尾で、同じ母音の繰返しがあると響きが際立ってくる。


[追伸]句頭に同じ母音がリフレインする典型は、前川佐美雄の例。
   句尾のリフレインについては、石川啄木の例歌の四、五句。
   もっと極端な例を次にあげる。


  ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
                      佐佐木信綱
  YuKu Aki No|YaMaTo No KuNi No|YaKuSHiJi No|Too No 
  UeNaRu|HiToHiRa No KuMo
  uu Ai o|aao o ui o|auii o|oo o Ueau|ioia o uo


  四箇所の句尾で母音「o」が繰り返して、流麗・荘重な調べを
  作り出している。