薔薇の文学館
5月12日から6月3日まで、鎌倉文学館の庭でバラまつりをやっている。それに重なるが館内では、澁澤龍彦企画展が開催されている。澁澤は18歳で鎌倉へ移り住んでから終生この地で暮した。59歳の生涯であった。浄智寺の墓地の小高い場所に墓があるというが、結界があるので入るのはためらわれる。彼が生前使用していた日常品も展示されているが、スーツやガウンがカッコいいのに感心した。原稿の筆跡が中学生のように生真面目、取材ノートもまことに丁寧。サド裁判のスキャンダラスな面からは想像しがたい。
薔薇と文学はなじみがよい。小説や詩の素材によく現れる。薔薇を詠んだ俳句や短歌にもよい作品は多い。
手の薔薇に蜂くれば我王の如し 中村草田男
ばらの香か今ゆき過ぎし人の香か 星野立子
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる
正岡子規
定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジョルカの花
斎藤 史
青春はなおそれぞれに痛ましくいま抱きおこす一束の薔薇
松坂 弘
日本の野生種のバラには、ノイバラ、サンショウバラ、ハマナスなど十数種あるという。中世以降、世界中で観賞用に化粧用に交配、栽培が盛んである。バラには、株バラと蔓バラ の2系統がある。文学館の庭に植えられた多種類の薔薇を見てもそれは分かった。
薔薇の香や鎌倉文学館に入る
文学の香りも高き薔薇花壇
晴天の森のうぐひす文学館
バラまつり投票用紙に薔薇の名を
剪定の籠に薔薇の香あふれたり
剪定の指傷つけし赤き薔薇
薔薇まつり王妃女優の名をつけて
紫陽花の鉢ならべおく谷戸の寺
新緑の風に吹かれて極楽寺
風かほる轉法輪殿一位の樹
江ノ電は垣根に触れんばかりなり布団干す家犬あそぶ庭
サーファの姿まれなり昼時の七里ガ浜に寄する白波
女ひとり声はりあぐる宝くじ「億万長者が出ている売場」