釣舟
磯釣りではまともな魚が釣れないのに、釣舟でほんの少し沖に出るだけで、魚屋で買うような大きさの魚が釣れる。江ノ島の状況がそうである。平日にも関わらず磯釣りをする人はいる。ヨットハーバー突端の燈台周辺や、江ノ島裏の岩礁海岸がスポットである。もっとも平日、休日という言い方はサラリーマン主体のもの。土、日に働いている人達は、週日のどこかが休日になっているのだから、当たり前である。
引きあけやおしろい花のしぼみたる
掛けならぶ白地に黒字盆提灯
ハマナスの実に凝固せり日の光
民宿の垣根に咲ける時計草
夫婦してゴキブリを追ふ梅雨の夜
四、五人の釣客のせて釣舟が波に漂ふ江ノ島の沖
釣れざればエンジンかけて動き出す青旗はれるひとつ釣舟
平らなる礁に波のうち寄せて白く縁取る江ノ島の海
水平線太平洋を見渡せば愚かなりけりわが来し方は
点々と白き釣り人ちらばれり江ノ島裏の岩礁の上に
断崖の松の上とぶ鳶の群子に餌を渡す親もありけり
断崖に樹の白骨の立てる見ゆ梅雨明くるらし江ノ島の空
磯釣りの中にひとりの女あり首に巻きたる白き包帯
磯釣りの中にひとりの女ありタバコふかして髪かきあぐる