橘
橘は、日本にある柑橘類の数少ない原産種で、
古事記にでてくる非時香菓(ときじくのかぐの
このみ)のことという。万葉集には多く詠まれており、75首もある。
橘や風ふるくさき長谷の里 子規
橘の陰履(ふ)む路の八街(やちまた)に物をそ思ふ妹に
逢はずて 万葉集・三方沙弥
かへり来ぬ昔を今とおもひねの夢のまくらに匂ふたちばな
新古今集・式子内親王
壮年のこころ鬻(う)りつつ 橘の截(き)りくちの黄の
つゆけき車輪 塚本邦雄
前衛歌人・塚本邦雄の歌の作り方は、和歌の作法(寄物陳思、正述心緒)にのっとっていることがよくわかる。前衛たる特徴は、比喩の導入である。ここの例では、結句「つゆけき車輪」。
鎌倉長谷・光則寺の本堂前には橘の木があり、この時期は濃い青い実がついている。
地に散りて土と化したり百日紅
極楽寺地虫の声のさかんなる
花枯れて実を結びけり酔芙蓉
非時香菓に谷戸の雨
頼朝に挙兵すすめし 岩の上の文覚上人荒行の像
極楽寺坂をのぼれば出会ふらむ鎌倉幕府のもののふの霊
もののふの霊慰むと植ゑられし紫陽花二百六十二株
紫陽花が咲けばよろこぶもののふの霊がさまよふ谷戸切通し
橘の枝八方にひろがりて梢の青き実が雨に濡る
忘れもの探すがごとくをちこちの木の間とびゆく黒揚羽蝶
下野の花の横なる賢治の碑雨にも負けず雨に濡れたり
土牢に閉ぢこめられしもののふのその後思へり谷戸の秋風
海面に身を起こせるは海豹か波くれば乗る黒きサーファー