天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山頂の榎(1)

吾妻山にて

 吾妻山の山頂に、まだ若いが幹のがっしりして立ち姿のよいエノキが一本立っている。やがてこの山の象徴になるであろう。そのうち童謡が作られるかも知れない。吾妻山の由来があり、万葉の歌がある。富士や大山の峰、相模の海、足元には菜の花やコスモスの花。芝生であそぶ子どもたちを見つめて大きくなるエノキの歌ができてよさそうである。


      知足寺も小春日和や夫婦句碑
      街川のせせらぎ渡る笹子かな
      山の端にけむり一筋笹子鳴く
      聞き分けもよく鹿眠る小春かな


  相模野の小さき寺を訪ぬればここにも曽我兄弟の墓あり
  廃園の間近きを知るくれなゐのインコ鋭く鳴きにけるかも
  吾妻山人になつけるさを鹿は子どもに寄りて菓子をねだれり
  聞き分けのよきさを鹿に育ちたり眠れと言へば足折りて伏す
  頂はもみぢ濃くなる吾妻山コスモスが咲き菜の花が咲き
  造山の神々の代を思はせて奥ゆくほどにかすむ山脈
  子どもらのあそび見てゐる山頂の榎はあまた実をつけて立つ
  吾妻山頂きに立ち見おろせば相模の海の長き潮の目
  黄葉の銀杏と色を競ひたり根方に咲ける石蕗の花
  カマツカの小さき朱美は日に照りて浅間神社の鳥居を飾る

   [注]カマツカ(鎌柄)、一名ウシコロシ。材は折れにくく
      鎌の柄に利用された。