楠
わが国の神社の杜には楠の木が多い。大きな楠には神が宿ると考えられた。関東の楠の代表として、熱海来宮神社の樹齢2千年を越える大楠をあげることができる。境内には大楠を詠んだ歌人・佐佐木信綱の歌碑があることやこの神社から小川沿いに5百メートルほど奥に入ったところに信綱が住んでいたことについては、以前に紹介したと思う。
昭和天皇もここに来られて次の歌を詠まれた。
天地乃神にぞ祈る朝なぎの海の如くに波立たぬ世を
さみしさも通り越したり木守柿
来宮は楠の木の杜どんどんと太鼓ひびかふひもろぎの宮
大楠は神の依代(よりしろ)礼(いや)ふかく不老長生
無病息災
餘香碑の下に蘇峰の遺髪あり九十五歳を憂国に死す
注連はれる大岩の上にとぐろ巻く蛇彫られたり鳩が水飲む
ひもろぎの宮に来れば歌を詠む信綱、天皇(すめろぎ)、
この私も
現代歌人の楠の歌をいくつかあげておく。
空襲に焼けたる楠のひこばえの蔭になるまで住みつきにけり
土屋文明
千年の楠の梢におうおうと呼ばれて遊びに来るいわし雲
田村広志
やさしく低く朝けの風に呼ぶこゑとなりて歌はむ樟の木のうた
永井陽子