天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌人たちの鎌倉9

円覚寺仏殿

 岡本かの子は、大正十二年の夏に鎌倉駅近くの宿に逗留した。そこで同宿の芥川龍之介と知り合った。それが契機となったか、彼をモデルにした処女小説「鶴は病みき」を昭和十一年にに発表した。岡本一家は、大正十二年の夏の滞在を終えて鎌倉を発つ直前に九月一日の関東大震災に遭った。次の歌は、江ノ電に乗った時のものであろう。

  海は重く遠く暮るるよ軽らかにその海ぞひをわが電車行く
 

ちなみに江ノ電は、明治43(1910)年に藤沢〜小町(後に鎌倉と改称)間全線が開業した。
 北原白秋は、昭和十六年、家族とともに鎌倉海浜ホテルに滞在して、「鎌倉海浜ホテルにて」と題する歌を詠んだ。


 旅にしある寒き燈かげや子が読むに哲学通論聴きつつ父は


また、「円覚寺雑唱」に次の歌あり。


  山といへば五山のひとつ臨済のこの大き寺のげ夏に籠る我は
  

なお、鎌倉海浜ホテルは今はない。

[注]この連載のブログを書くに当たっては、鎌倉文学館編集の
   『鎌倉文学碑めぐり』、と『鎌倉文学散歩』(三巻)を参考に
   している。鎌倉を知るのに大変便利である。