天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

直木賞作品

如月の富士

 伊丹に日帰り出張した際、帰りに新大阪駅構内の本屋で、奥田英朗空中ブランコ』の文庫本を買って「のぞみ」の中で読んだ。直木賞受賞の表題の作品以外にいくつか入っている。正直、「空中ブランコ」自体を読んで、何故これが受賞したのか理解できなかった。
なにか劇的なことが起きるのではないかと思っていてもたいした事件は起きない。ちょっと風変わりな医者がでてきて目立ちたがりの行動をするだけ。読み終わって、なんだこれは? と思ってしまう。
実は、伊良部総合病院神経科の伊良部一郎医師という魅力的なキャラクターを中心にした連作ものなのだ。この行き方は、池波正太郎藤沢周平と同じではないか。主人公が現代人という違いはあるが。テレビドラマにしたくなるような構成になっている。「空中ブランコ」以外の作品を読んで初めて意図が理解できた次第。
 短歌では、塚本邦雄が長年にわたって詠み継いだ「山川呉服店」の変遷を連想した。おおげさだが、文芸の本質の一端を見た思いである。