天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

勿忘草

箱根湿性花園にて

 今年も出張先の兵庫県三田の山中から今日のブログを書き入れている。もちろん、原稿はあらかじめ作って持参した。

 今日はワスレナグサについてである。欧州、アジア原産のムラサキ科多年草。この花、ヨーロッパでは文字通り「私を忘れないで」の意味で愛と誠の象徴、古くから詩歌に歌われた。もとはドイツの悲恋物語からきた名前という。近縁のエゾムラサキは、北海道や本州中部の深山にはえる。茎の基部が地を這い、花は瑠璃色。


      小さう咲いて勿忘草や妹が許   村上鬼城
      消ぬばかり勿忘草の風に揺れ   菊川芳秋
      勿忘草たちまち迷ふ出湯の径   児玉小秋


  仏蘭西のみやび少女がさしかざす勿忘草の空いろの花
                      北原白秋
  思ふてふこと言はぬ人の
  おくり来し
  忘れな草もいちじろかりし
                      石川啄木
  水いろに咲ける花こそ優しけれ勿忘草と教へたまへり
                      宮 柊二
  敗戦、たちまち半世紀にて蒼き血の勿忘草も消えうせたり
                      塚本邦雄