にわとり
鶏は、キジ目キジ科ニワトリ属の家禽。古名には、かけ、かけろ、くたかけ、くだかけ、庭つ鳥 などがある。このうち、くだかけは、鶏をののしっていう語であった。最も古くは、『古事記歌謡』に現れる。
・・・・さ野つ鳥 雉(きぎし)は響(とよ)む
庭つ鳥 鶏(かけ)は鳴く ・・・・
この先例から「庭つ鳥」は「かけ(鶏)」にかかる枕詞になった。万葉集には、次のような歌がある。
庭つ鳥鶏(かけ)の垂尾の乱尾(みだりお)の長き心を
思ほえぬかも
また、「鶏が鳴く」は、東(あづま)にかかる枕詞になった。大和朝廷を中心とする奈良の都からすれば、辺境の東国の人々の話し言葉は、鶏の鳴き声のように聞こえたから、という俗説がある。
鶏(とり)が鳴く東を指してふさへしに行かむと
思へど由(よし)も実(さね)なし
高橋虫麻呂や柿本人麻呂の長歌にも出てくる。次は、高橋虫麻呂の歌の初めの部分。
鶏(とり)が鳴く 東(あづま)の国に
古(いにしへ)に ありけることと 今までに 絶えず言ひける
勝鹿の 真間の手児名(てごな)が ・・・
このように鶏は、わが国の詩歌にとっても最古の時代からなじみのある動物であった。
遠妻(とほづま)と手枕交(か)へてさ寝る夜は鶏(かけ)は
な鳴きそ明けば明けぬとも 柿本人麻呂
日の下に妻が立つとき咽喉長く家のくだかけは鳴きゐたりけり
島木赤彦
現身(うつしみ)の白の鶏(かけろ)が今朝産みし暖(ぬく)き
卵をひとつ割りたり 北原白秋
しろたへのわが鶏(かけ)にやる春の日の餌(ゑ)には交れり菜の
花の黄も 岡本かの子