天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

夏木立(3)

日向薬師

 小田急線・伊勢原駅に降りて、大山行きのバスを待っていたが、日向薬師行きが先に来たので、それに乗ってしまった。その場の思いつきで行動するのはいつもの習性である。終点で降りたが、客は他にだれもいなかった。ノウゼンカズラや白い槿の花が農家の庭に咲いているくらいで、特段に目立つ花はない。山田には、稲が青々と育っていた。
 源頼朝の長女・大姫は幼い頃に婚約者の義高を、父の命令で殺されてしまった。以来、心に深い傷を負って立ち直れず、やせ細ってしまった。頼朝は、全快を祈って祈祷したり、神社に参拝した。この日向薬師にもきた。だが、大姫は癒えることなく二十歳という短い生涯を終えた。幼い大姫の悲しみたるや想像に余りある。

 
      大いなる鳥獣供養碑蝉しぐれ
      狗尾草(ゑのころ)に飽かずとびつく雀かな


  たたなはる山のふもとに青々と稲の棚田のひろがりを見つ
  切れ端と見ゆる注連縄短きが白髯神社の額にかかれり
  頼朝が白装束に着替へしと今に伝へる衣装場(いしば)の地名
  大姫の全快祈り詣でけり軍勢なせる頼朝の供
  この山を霊場とせしそのかみの聖おもほゆ日向薬師
  大楠の洞にしづもる虚空蔵菩薩に捧ぐジュース、日本酒
  丹頂の像がみつめて静もれる池の底ひのひとつ出目金
  赤子抱く地蔵菩薩の金色があまた立たせり水子の供養
  なつかしき夏うぐひすの声聞けばいよいよ青む杉の木立は
  赤色のまだ身に付かぬ秋あかね青き稲田の空を飛び交ふ
  手作りの野菜農家が客を待つ日向薬師の裏の参道
  「南無伊勢原火伏不動明王」の文字はま白き紺地の幟
  ケータイに気をとられたるスカートの女が見する無防備の腿