天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

白秋の『雲母集』(9)

城ヶ島・海鵜の岬

その他の特徴ある修辞


 これまでに取り上げなかった修辞として、オノマトペ、素材、人名・職業などにつき、代表的な言葉だけではあるが、三歌集『桐の花』、『雲母集』、『黒檜』で比較した結果を下に表示にしておく。
「‥‥‥と」の形のオノマトペをよく使用しているとか、「さみし」「かなし」「あはれ」といった感情表現の修辞は共通的なものも多いが、オノマトペと歌に詠む素材・人名・職業については、『雲母集』の生命賛歌、光明礼賛の特徴がはっきり出ている。


『桐の花』

オノマトペ: あかあかと、しみじみと、たらんてら、ちりからと、
       さくさくと、きりはたりはたりちやうちやう、 

感情表現:  かなし、さみしき、なつかし、泣かまほし、いとほし、
       くるし

素材・動物: 春の鳥、斑猫、金糸雀、黒鶫、おかめ鸚哥、孔雀、
       へら鷺、青蜥蜴

素材・植物: 欝金さくら、ヒヤシンス、あまりりす、ヂキタリス、
       ダリヤおいらん草、朱欒、鶏頭の花、ロベリヤ、
       ぐろきしにあ

素材・物象: パノラマ、ジンの酒、クラリネット、ちゃるめら、
       金口の露西亜煙草、カステラ、コロロホルム、
       清元、常磐

人物・職業: 露西亜の地主、踊子、道化、わかき大工、宝石商、
       女手品師、円喬、クリスチナ・ロセチ、ラムボオ


『雲母集』

オノマトペ: かうかうと、ぬつと、はつたりと、むくりむくりと、
       ごろりと、しんしんと、けつけつと

感情表現:  かなし、寂しき、なつかし、いとし、あはれ、麗らか、
       一心に

素材・動物: 大鴉、雲雀、鶺鴒、海亀、鱶、鰯、牛、蠣、大鯛、蛸、
       烏賊、鮪、豚

素材・植物: みるめ、馬鈴薯の花、キャベツ、青豌豆、じゅんさい
       狐のかみり、赤たうがし、白菊、棕櫚、甘藷畑、人参

素材・物象: 手、足、渚、漣、入道雲、朝霧、蒸気船、馬車、
       道陸神、闇、不二、投網、かぢめ舟、閻浮檀金、
       馬頭観世音

人物・職業: 海人が子、女子、巡礼、北斎、秋成、恵美須三郎、
       行基菩薩、親鸞上人、種蒔人、ミレエ


『黒檜』

オノマトペ: ぴしりと、ほたほたと、くくくと、とよとよと、
       たのたのと、じじと、ひらら、ひたひたと

感情表現:  あやなし、すがすがし、かなしも、愛し、あはれ、
       おぼつかな、さぶしき、めでたし

素材・動物: 鼠、雀、蛙、春蝉、蛍、緋秧鶏、蚊、夕河鹿、鰄魚

素材・植物: 合歓、蘭、のうぜんかづら、夕顔、矢筈檀、条花、
       白樺、むくろじの実、木蓼、秋海棠の花、紫雲英田

素材・物象: 月夜、あかり戸、眼、霜、暁、未明、火桶、人づゑ、
       手毬、木魚、東宝撮影所、戦車、旋盤、野鳥レコード、
       揚子江ノモンハン

人物・職業: 盲、女童、老兵、山椒太夫、頼豪阿闇梨、良寛、利休、
       塙保己一、鑑真和上、頼豪阿闇梨