天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

紅葉狩(2)

百草園にて

 東京の多摩丘陵にも紅葉の名所がいくつかある。その内のひとつ百草園に行ってきた。京王線百草園駅から徒歩15分ほどの距離だが、顔に迫ってくるような急勾配の坂を登りきったところに入口があり、そこからさらに階段をのぼるので健脚にも息がきれる。丘陵の小山ひとつを庭園にした感じである。頂の展望台からは新宿や池袋の高層ビル群がはるかかなたにかすむ。明治の頃は鬱蒼とした林の広がる関東平野に見えたはず。
 奈良時代に創設された松蓮寺が元らしい。鎌倉時代に戦火に会い廃寺になり、江戸時代に再建されたが、明治初年の廃仏毀釈で再び廃寺。明治二十年に百草園として開園、多くの文人墨客が訪れた。若山牧水も何度かここにきた。恋人の園田小枝子を伴って、また別れた後の心を整理するために。歌碑のひとつに次の歌が書かれている。

  小鳥よりさらに身かろくうつくしくかなしく春の木の間ゆく君


園内にはこの歌碑の他に、長男・旅人が設計した白い壁に3首が書かれた歌碑がある。また芭蕉の句碑も二基置かれている。日頃はお茶会、句会、歌会に利用されている。
 

      句碑を読むミツバツツジの帰り花
      笹鳴を足元に聞く百草園
      失恋の歌人を想ふもみぢかな


  貨車を引く電気機関車「桃太郎」ある日藤沢けふ八王子
  道に添ふ手摺にすがりのぼりゆく険しき坂を百草園まで
  苦しきは恋の思ひ出牧水が草鞋にたどる松蓮寺坂
  人妻と別れて訪ひし百草園独り詠へる恋の思ひ出
  血の色に透けるもみぢに人妻のその後思へり身ごもりしとふ
  よもぎそば甘酒を待つしまらくを池に映れるもみぢ愛でたり
  頂に立てばさみしき蜃気楼新宿都心もみぢにかすむ