紅葉狩(1)
野趣あふれる雅な日本語である。紅葉の名所を訪ね歩くこと。観世小次郎信光作の能に「紅葉狩」がある。舞台は信濃の戸隠。紅葉の下で美女たちが舞などして楽しんでいるところに、平維茂が通りかかって引き留められ、酒を振舞われて酔いしれる。女は恐ろしい鬼の姿となり維茂に襲いかかろうとするが、夢の中の神のお告げで事態を悟った維茂が鬼を退治する、という筋書き。戸隠の鬼伝説と美しい紅葉の情景とを合体させた作品である。
仁和寺を道の序や紅葉狩 松根東洋城
いつぽんは鬼より紅し紅葉狩 鍵和田ゆう子
紅葉狩二荒(ふたら)に行くとあかときの汽車乗るところ
人なりとよむ 伊藤左千夫
神奈川県下の紅葉の名所はいくつかあるが、毎年この時期に訪ねるのは、大山である。特に中腹にある大山寺の石段に添う紅葉は、名所になっている。夜間はライトアップされ訪れる人が後を絶たない。混雑を避けるために午前中に訪ねた。
朝の陽に熟柿垂れたり這子坂
錦秋の芭蕉の句碑や無明橋
ハイカーのバッグに吊れる鈴鳴ればいらだちにけり錦秋の熊
なにものか断崖の上をあゆむらし石落ちきたり谷にひびかふ
金色の光発して牙を剥く玉のまなこの不動明王
良弁が開きし山に味噌を売る紅葉影なす石段の寺
山間に倒れなだるる大木を輪切にしたりチェンソーの音
星霜のみどり湛へて樅の木は山のなだりに垂直に立つ
海坂は光みちたり錦秋の木の間がくれに大島の見ゆ
大山のケーブルカーの駅出口熊出没の札立ててあり
風なくもいつせいに散る黄葉に照りて明らむ山襞の谷
つね日頃足腰きたへおかざれば登りがたしもまなかひの峰
しらじらと裏葉を見せてさやぎけり秋風吹ける相模路の山