天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山桜の歌

神武寺にて

 ヤマザクラの幼葉は赤みがかっているため遠くからは、花までうす紅に見えるが、実際は白い。奈良県吉野山ヤマザクラの名所である。古来多くの和歌に詠われた。太平洋戦争では、本居宣長の歌がはからずも大和魂の高揚にもてはやされた。広辞苑によると「大和魂」という言葉は、源氏物語に「才を本としてこそ、大和魂の世に用ひらるる方も」とあり、漢才すなわち学問(漢学)上の知識に対して、実生活上の知恵・才能を指す。「大和心」も『大鏡』に出て来るように大和魂と同じ意味を表す場合もある。しかし、宣長の「大和心」は、日本人の持つ、やさしくやわらいだ心情を意味しており、決して勇猛果敢な心を指すものではない。


  あしひきの山桜花日並べて斯く咲きたらばいと恋ひめやも
                    万葉集山部赤人
  山桜かすみのまよりほのかにも見てしひとこそ恋しかりけれ
                    古今集紀貫之
  あくがるる心はさても山桜ちりなん後やみにかへるべき
                    山家集西行
  さざなみやしがの都はあれにしを昔ながらの山ざくらかな
                    千載集・読人しらず
  しきしまのやまと心を人とはば朝日ににほふ山ざくらばな
                      本居宣長
  うらうらと照れる光にかぶりあひて咲きしづもれる山ざくら花
                      若山牧水