春潮と白鷺
三月最後の日曜日の江ノ島。春風は少し首筋に冷たかったが、うららかな日和であった。今回の収穫は、たくさんの富士壺とぜんまいを見たこと。ぜんまいにはずいぶん久しぶりに出会った。
フジツボの岩に影さす春の鳶
富士壺の闇が見つむる春の潮
ぜんまいや廃屋跡の思案顔
あからめる梢にひらく四、五輪の白きさくらを朝風が吹く
いちはやく花をつけたる梢には人と目白の視線あつまる
まなかひに春雪の富士望み見てカヌー漕ぎ出づ江ノ島の海
くろぐろと立つ大山の奥に見ゆはだらの雪の丹沢山塊
富士壺の暗き眼のならびたる岩あらはるる春の引潮
護摩行のけむり籠れる本堂に光は差せり海に開く窓
魚を裂く手つきあやふし髭面の若者見ゆる裏店通り
満ち潮の波打際の白さにもまぎれず立てり春の白鷺