天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

杉田久女

坂本宮尾著『杉田久女』

 遅まきながら坂本宮尾著『杉田久女』を読み終えた。調査に十年、執筆に三年を要した力作である。俳人協会評論賞を受賞している。
ホトトギス同人除名、高浜虚子の序文が得られず生前の句集出版の望みが絶たれる、晩年は精神病院 など、杉田久女は女流俳人として特異な存在である。だが、生前からその俳句作品は群を抜いていたし、才能は広く認められていた。途中から師と仰ぐ虚子から嫌われ、精神を病むほど苦しんだが、彼女の性格にも大いなる原因があった。しかし、次のような名作(坂本宮尾が選ぶ十句)により、俳句史にその名を残した。


      谺して山ほととぎすほしいまま
      花衣ぬぐや纏る紐いろいろ
      紫陽花に秋冷いたる信濃かな
      防人の妻恋ふ歌や磯菜摘む
      朝顔や濁り初めたる市の空
      夕顔やひらきかかりて襞深く
      風に落つ楊貴妃桜房のまま
      ぬかづけばわれも善女や仏生会
      栴檀の花散る那覇に入学す
      鶴の影舞ひ下りる時大いなる


 概略内容は以上のごとくである。
 多くの新しい資料に眼を通し、総合的に考察したことはよく理解できるが、筆者による独自の発見がどこにあるのか、曖昧。虚子や松本清張の小説を、偏った見方と批判しているが、小説とはそもそも虚構を含むものであり、説得力に欠ける。論の進め方はもっと簡潔に、また独自性を明確にしたほうが読み易いと感じた。