天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

藤の花

小田原城にて

 藤はマメ科のつる性の落葉低木で日本の特産。若芽は食用になる。幾筋も垂れた花房が揺れる様子から藤波という言葉が生まれた。紫藤には、野田藤と山藤の二種がある。他に白藤もある。藤は万葉集の時代から多く歌に詠まれてきた。万葉集には二十首以上ある。


  恋しけば形見にせむとわが宿に植ゑし藤波いま咲きにけり
                     万葉集山部赤人
  いささかに思ひて来しを多祜の浦に咲ける藤見て一夜経ぬべし
                     万葉集久米広縄
  紫の色のゆかりに藤の花かかれる松もむつまじきかな
                     金葉集・藤原顕輔
  緑なる松にかかれる藤なれどおのがころとぞ花は咲きける
                     新古今集紀貫之
  生ける世のさびしくならば此所に来よ谷にたなびく藤波の花
                       土屋文明
  藤棚のあした小暗し咲き垂るる藤の花尖みな光持つ
                       宮柊二
  飛火野は春きはまりて山藤の花こぼれ来も瑠璃の空より
                       吉野秀雄


 神奈川県下の藤の名所はいくつもあろうが、横須賀菖蒲園もそのうちに加えてよいだろう。菖蒲の花の時期は六月ころだが、5月上旬には山の辺の二百五十本の藤が見事な花房を垂れる。


    女らに藤の花影淡々と
    山の辺に咲きおもりたる藤の花