天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

額紫陽花

北鎌倉海蔵寺にて

 日本原産のアジサイガクアジサイの「ガク」は周辺の大きな装飾花が中央の細かな両性花を取り囲んだ平たい花形を、額縁に見立てて江戸時代に付けられた和名らしい。もともと「あじさい」の名は「藍色が集まったもの」を意味する「あづさい」からきたと言う。漢字表記の「紫陽花」は唐の詩人・白居易が別の花に名付けたもので、平安時代の学者・源順がこの漢字をあてはめたことから誤って広まったといわれている。ユキノシタ科の落葉低木。毒性があり、食べると中毒を起こす。過呼吸、興奮、ふらつき、痙攣、麻痺などの症状が出る。死亡することもある。万葉集の頃から歌に詠まれている。


  言問はぬ木すら紫陽花諸弟(もろと)らが練の占(むらへ)に
  あざむかえけり            万葉集大伴家持
                      
  紫陽花の八重咲くごとく弥(や)つ代にをいませわが背子(せこ)
  見つつ偲はむ             万葉集・橘 諸兄
                      
  夏もなほ心はつきぬ紫陽花の四ひらの露に月も澄みけり
                         藤原俊成
  紫陽花の萎れて後に咲く花のただ一えだに秋の風まて
                         藤原定家

  行くへなき 炎中(ほなか)の別れせし日より、泣けてならざる
  今朝の 紫陽花                釈 迢空
                          
  紫陽花に日は照り昃(ひかげ)れるかなた「夢占ひ」の墜ちゆく
  青年                     塚本邦雄


  むらむらとあしたの庭に見えわたり若く真青(まさお)き紫陽花
  のはな                    宮 柊二