十王
北鎌倉の円応寺から亀ケ谷坂を越えて、海蔵寺、銭洗弁財天と歩いてきた。円応寺には十王の彫像が置いてある。十王とは、秦広王、初江王、宋帝王、五官王、閻魔王、変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王 のこと。これらの像は、みな中国の服装をしている。何故か。もともと仏教には、こうした偶像はなかったのだが、中国に伝わり、道教と習合していく過程で偽経の『閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土経』が作られ、晩唐の時期に十王信仰が成立した。
仏教が民間に伝承していくとは、こうした現象のことであった。
奪衣婆(だつえば)を前に女生徒汗を拭き
のぼり来て亀ケ谷坂岩たばこ
脱底(そこぬけ)の井に影をみる七変化
運慶の閻魔が笑ふ額の花
銭洗岩屋のあかり燕くる
この寺に姿を見たり冥界に亡者の我が出会ふ十王
これの世に生き返されし運慶がよろこび彫りし閻魔笑へる
葬送の場所ともなりし化粧坂水したたれば岩たばこ咲く
なお、運慶作という閻魔像は、どうやら時代が合わないらしく、あくまで言伝えである。