天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

処暑の大磯

こよろぎの浜(大磯)にて

 処暑二十四節気の一つで、太陽歴の八月二十四日頃にあたる。久しぶりに旧吉田邸跡に行ってみた。中には入れない。垣根の外から見る限り、焼け跡を感じさせる光景はなく、緑に覆われていた。戦後の日本の行方を決定づける相談も為されたであろう場所を思うと、政治のことながら、「夏草やつはものどもが夢の跡」が浮ぶ。

     濃き蔭の黒松並木蝉しぐれ
     蔵ひとつ焼け残りたり夾竹桃
     青鳩を待つ炎天の照ケ崎
     水浴びの声かん高き照ケ崎
     蝉鳴くや新島襄終焉の地に
     打水の風にふかるる鴫立庵
     黒揚羽鴫立庵の歌碑を読む
     電車過ぐ夾竹桃をなびかせて


  「赤とんぼ」流れてきたる町中は暑きさなかのゴミ収集車
  この道にステッキつきて出でにけむ焼け跡として旧吉田邸
  焼けのこる銅像ひとつ大磯の戦後六十五年の夏は
  家燃ゆる焔背にして丘に立つ吉田茂銅像なれば
  大磯の海岸線を右に見て釣舟がゆくその五、六艘
  寄せてきて磯にひろがる白波に足を浸せりひとつ鷗は
  上半身裸になりて鱚を釣るあを白波のこよろぎの浜
  幾世代経てなほ佇てる大磯の西行法師笠懸けの松