蜘蛛の囲
クモは節足動物クモ科の総称。網(巣、囲い)を張る種類と張らない種類とがある。肉食性で獲物を射して毒液で弱らせたあと、酵素で口外消化し、ポンプ式の胃で吸収する。蜘蛛の形が小蟹に似ているところから、古くは、「ささがに」と呼んだ。「ささがにの」は蜘蛛、囲、糸にかかる枕詞になった。
わが夫子(せこ)が来べき宵なりささがにの蜘蛛の行ひ今宵
著(しる)しも 日本書紀・衣通(そとほり)姫
ささがにの糸につらぬく露の玉をかけて飾れる世にこそ
ありけれ 西行
ささがにの玉貫く糸の緒を弱み風にみだれて露ぞこぼるる
源 実朝
ひとひらの翳を掴みて降りてくる蜘蛛よ地上に神なき夕
倉地与年子
かけ終えし巣にみづからをしばし置き縛されしごと蜘蛛は動かず
浜田康敬
きらめくはひかりに触るる蜘蛛の糸ずつと秋だよ空のはてまで
沢口芙美
己が身も吊されてをりて銀の糸ひきつつ宙へのぼりゆく蜘蛛
篠 弘
蜘蛛の囲に死をむかへたるかなかなの羽根透きとほる朝光の森
ささがにの糸にくるまれ塊は何のむくろか秋風に揺る