天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鑑賞の文学 ―短歌篇(1)―

万葉秀歌(岩波新書)

 和歌の鑑賞文の歴史を見ておこう。
歌論や歌学の発生は古く、平安朝に遡る。通常、和歌の本質論は歌論と言い、それ以外の和歌に関する諸知識を求める学問を歌学と称する。平安時代中期に成立した古今和歌集仮名序で日本的歌論が展開されるようになってから歌学は盛んになった。鎌倉時代前期から中期にかけて和歌の本質を論じた歌論書が数多く現れたが、中でも藤原俊成・定家の幽玄・有心の歌論は後世の歌学の基礎となった。室町時代に入り、古今伝授などの風が生じ歌学の固定化・形式化が進んだ。歌論では、論が中心で個々の歌は例として取り上げられる。並行して「万葉集」の研究も始まった。万葉集の一首一首の注釈・鑑賞は、鎌倉初期の仙覚に始まり江戸期に入ってから盛んになり、近代から現代までも続いた。
 近代以降で最もよく読まれた鑑賞文は、斎藤茂吉の『万葉秀歌』であろう。昭和十三年十一月二十日に第1刷発行以来、最新版は、2010年2月5日の第102刷である。茂吉によれば、「本書の目的は秀歌の選出にあり、歌が主で注釈が従、評釈は読者諸氏の参考、鑑賞の助手の役目に過ぎないものであって」という。読者は、選ばれた歌の秀歌たる所以を知ることができる。もちろん、茂吉の感性と彼の評価基準に基づくものである。