天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鑑賞の文学 ―短歌篇(16)―

思潮社刊

 高橋睦郎は、歌集『爾比麻久良』(新枕の意味)において、枕詞を現代短歌に生かす試みをしている。更に新しい枕詞を作りだしている。その趣旨は次のようである。
 「枕詞と総称されるいまでは顧られることのほとんどない言葉の
  古枕を、記憶の庫から取り出してその上に片時なりと現代の痩
  せた夢を預けてみよう。・・・」
 「歌集『爾比麻久良』は新枕。そのかみ『万葉集』以前に大いなる
  詩的喚起力を持ち、いまは旧弊の遺物としか考えられていない
  枕詞なる言葉の枕を、現在の立場から五十音順にそのつど縫い
  なおし、あるいは新しく仕立てて、・・・」


新しく作り出した枕詞の例に「へすぺりあ」がある。もとの言葉は、Hesperia(夕べの国)で、イタリアとスペインを意味する。歌の例を三首あげておく。

  へすぺりあ夕べの国の伊太利(いたりあ)に棲まむと思ふ額夕映え
  へすぺりあ夕べ伊太利汝(な)が土を恋ほしと思ふ吾夕つ人
  へすぺりあ夕べ伊太利その昔(かみ)の皇帝と稚児の恋も夕映え