天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

メルトダウン

上野不忍池

 五月の「短歌人」東京歌会は、上野の東京文化会館での開催。天気が良かったので、少し早目に来て不忍池をめぐった、昨今の「福島原発」の情況のニュースに、思考が占領されて、花鳥風月は思い浮かばない。あの大地震の後に、実は原子炉ではメルトダウンが始まっていたという。中学生の時に、メルトダウンとは、核燃料物質が何千度という高温の塊となり、鋼鉄の容器も周辺の土も溶かして、放射能を持つガスを発生させながら、地球の中心核に向って落ちてゆく現象、と漫画かなにかで読んだ記憶がある。今回の福島原発事故では、数千度になったという報道はないので、原子炉容器の底を溶かすまでには至らなかったのだろう。そんなことを考えながら、不忍池の周りを歩いた。


  黒ずめる石燈籠の基(もとゐ)にはコンクリート塗る
  地震(なゐ)にそなへて


  ふたたびの核分裂をうたがへりメルトダウンの後の福島
  いちはやく倭のがれし異邦人メルトダウンの恐怖知るらし
  飛散せし放射能物質を吸ふならむボート浮かべる不忍池
  不忍池のま中の屋根青き弁天堂の金の擬宝珠
  ふたたびの核分裂を憂ふれば熟寝(うまい)しなさぬ死の灰の夢
  残り鴨一羽だに見ぬ水の面にしぶきをあぐる泥鯉のむれ


 歌会に提出したわが詠草は、


  葬式は北アラビア海その位置の定かならざる「カール・ビンソン」


おおむね好評であった。カール・ビンソンはアメリカ海軍の空母の名前。これに括弧をつけることに賛否両論が出た。実は、作者の私自身が推敲した点である。この空母の今回の任務は、ウサマ・ビンラディンの死体を儀式にのっとって水葬にするという特殊性・象徴性を帯びていたことから、括弧をつけることにしたのであった。


[追伸] 5月24日のNHKニュースによると、福島原発1,2,3号機は、地震直後の数日の内に炉内温度が3000度に達してメルトダウンしていたという。鉄の沸点が2750度なので、容器の底も溶けたのではないか?最悪の事態になっていたことになる。当時の専門家のTVでの予想は、みな間違っていたのである。