畳鰯
明治初期に日本で活躍した英国人画家チャールズ・ワーグマンが描いた腰越海岸の絵がある。小動岬が見えているのみの海岸でまことにそっけない。現在は漁港としての護岸工事が進んでいる。漁港の広場でも漁港の反対側の砂浜でも、畳鰯を干している。ここから義経腰越状で知られる満福寺、腰越通りを経て、日蓮法難の地の滝口寺へと歩くのが、私の定番ルートである。
境川河口に向かひ六人がアウトリガーのカヌー漕ぎくる
老人がゴミを拾へる砂浜に遊泳禁止の赤き旗見ゆ
右手には海水浴場ひろがれり釣舟もやふ腰越漁港
大小の鳥居六基をかぞへたるこゆるぎ岬淤母陀流神
(おもだるのかみ)
波に乗りサーフボードに立つ男しきり櫂漕ぎ浜辺に向かふ
砂浜に寄せ来しごみに罎缶のありてまぎるる海胆のなきがら
日当りを気にする老婆砂浜に畳鰯を並べ変へ干す
朝顔の咲きのぼりたる垣根あり魚割く朝の腰越通り
千羽鶴一筋そなへ束子もて水かけ洗ふ浄行菩薩
猛暑日のすばな通りにバン停めて元祖味噌もちと掻き氷売る
氷片を詰めしグラスにバーボンを満たして飲めば猛暑日は去る