九月折々(2)
仲秋の名月の時期に愛知県岡崎市を訪ねた。徳川家康生誕地である岡崎城や八丁味噌で知られる。岡崎城公園には、徳川家康の像が三か所にある。武装の像、しかみ像そして時計塔のカラクリ人形(右の写真)である。時計塔は三十分ごとに三面が上り能舞台が現れて家康が舞う。家康の面が途中でがらりと変化するのでびっくりする。ただ城を見て歩いてもあまり歌を作る気になれなかった。むしろ新幹線の車中から見る窓外の光景に詩情を感じる。
猛暑日やみどりの球のガスタンク
白煙はとどかざるべし夏の富士
園児らといつしよに唄うトンボかな
せんせいの童話聴いてる秋の雲
校庭に女児が指揮する秋の空
仲秋の月を愛でけむ天守閣
昨夜過ぎし風の跡ある稲田かな
空の涯崩れかけたる雲の峰
湖の辺に鳥居立つ秋あかね
旅人のあくがれとして秋の雲
ゆく雲の影にくもれる稲田かな
仲秋の名月なればマンションの最上階の廊下に仰ぐ
空晴れて東の空にのぼり出づ九月十二日の日本の月
女児の描く岡崎城の天守閣左右の松は枝ひろげたり
うす青き空のかなたの山の上に崩れかけたる雲の峰見ゆ
新幹線掛川駅に停まる度はるけく偲ぶ小夜の中山
うちよする駿河の国の茶畑が新幹線の窓外を飛ぶ
夏逝きてなほ黒く立つ富士の峰 製紙工場が白煙を吐く
山裾に雲をまとへる富士の峰黒々立てり夏逝かむとす