夕顔の実
ウリ科の一年草。アフリカから熱帯アジアが原産という。夏の夕方から朝にかけて白色の花をつける。果実には二種類あり、長い円筒形の若いものは生食にでき、扁平で大きなものは干瓢にする。過熟した果皮を容器にしたが、これも瓢箪(ひょうたん)と共に瓢(ひさご)と呼んだ。源氏物語の女性・夕顔は物の怪にとり憑かれて死ぬが、紫式部はこの植物の花と実の両方のイメージをとったのだろう。
栃木より夕顔の実をかかへきし 青柳志解樹
夕顔の実に汽車の音川の音 知久芳子
ゆふがほの実の裏がはの湿りたる 長谷川櫂
夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我がいのちかも
正岡子規
夕顔の実を裂く母の俤は灼きつく夏のかげろふのなか
岡山たづ子
子規の歌の夕顔は、夏に咲く花よりも秋に採取する実の方を意識している。
[追伸]この歌に大変よく似た有名な次の歌がある。
いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春行かんとす
実はこれら二首は、明治三十四年の同時期に作られたもので、「しひて筆を取りて」と題する十首の内にある。ちなみに一首目は、
佐保神の別れかなしも来ん春にふたたび逢はんわれならなくに
いずれも、来年を迎えることはないだろうと自身の死期を悟った心境を詠んでいる。実際には翌年の春を迎え夏まで命は続き、9月19日に亡くなった。