旅人かへらず
慶応大学の藤沢キャンパスを歩いていたら、2号遊水池を見下す芝生に、アクリル板があって、次のように書かれていた。
旅人は待てよ
このかすかな泉に
舌を濡らす前に
考へよ人生の旅人
西脇順三郎「旅人かへらず」
これは詩の冒頭部分であり、次のように続く。
汝もまた岩間からしみ出た
水霊にすぎない
この考へる水も永劫には流れない
永劫の或時にひからびる
ああかけすが鳴いてやかましい
(以下省略)
詩人・英文学者の西脇順三郎は慶応大学理財科(経済学部)を卒業し、後に母校の文学部教授を務めた。その関係でキャンパス内にこうした詩が紹介されているのだろう。
大学の遊水池(いうすいいけ)の辺に立てば「旅人かへらず」
の一節はあり
学徒らをうらやむなゆめ秋風の池の辺に読む「旅人かへらず」
西脇順三郎の詩は自由律なので、直に意味を考えやすい。それは島崎藤村の快い韻律の詩と比べるとわかる。藤村の方では、先ず韻律に酔い痴れる。意味は後からついてくる。
小諸なる古城のほとり
雲白く旅子悲しむ
緑なすはこべは萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪流る 千曲川旅情の歌より