天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

枳殻

南足柄丸太の森にて

 漢名「キコク」、和名「からたち」はミカン科の落葉低木。中国原産。樹皮は緑で棘が多く生垣に利用される。四月ころ白い五弁の小花が咲く。実は黄色で堅い。漢字では他に枳、枸橘などを当てる。


     うき人を枳殻垣よりくぐらせむ    芭蕉


  枳の棘原(うばら)刈り除(そ)け倉立てむ屎(くそ)遠く
  まれ櫛(くし)造る刃自(とじ)   万葉集・忌部首


  枳殻のかたくかぐろき棘の根に黄いろの芽あり春
  たけにけり             木下利玄


  一つ灯の光さし来て雨たもつ枳殻の葉の闇に真青なり
                    窪田空穂
  たまたまに手など触りつつ添ひ歩む枳殻垣にほこり
  たまれり              斎藤茂吉


  何事も云はでさしぐむ君と我が幾まだりせしからたち
  の垣               岡本かの子


ちなみに北原白秋作詩、山田耕筰作曲童謡の「からたち」は有名。六番まであるが、一、二番は周知のように次の通り。


     からたちの花が咲いたよ。
     白い白い花が咲いたよ。
 
     からたちのとげはいたいよ。
     障uい障uい針のとげだよ。


柳川の矢留尋常小学校の通学路「鬼童小路(おんどこうじ)」には、からたちが畑の垣根として植えてあった。幼少期の白秋が通学した道の原風景から生まれた詩という。