天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

新春雑詠(4)

円覚寺の池

 大寒になるまでは、横浜や藤沢の公園を歩いても霜柱や薄氷を見かけなかったが、大寒を過ぎて雪が降ってからは、珍しくなくなくなった。北鎌倉・円覚寺の庭でも池に浮んだ薄氷や池の縁の苔を持ち上げている霜柱に出会った。ただ、氷柱にはまだお目にかかれない。


     西空に大山の峰風光る
     アオサギや冬田の畔に紛れ入る
     冬川の水面見つむる鷺の朝
     春風の山門くぐる円覚寺
     毘闍桴羅迦(びじやふらか)佛手柑垂るる睦月かな
     蝋梅に朝日したたる円覚寺
     薄氷や鉢にのこせる蓮の茎
     木洩れ陽に素心蝋梅輝けり
     薄氷に枯葉おちたる手水鉢
     薄氷や蓮のねむりのうすみどり


  薄氷を見つけむと来し里山の池はさざ波アオサギの佇つ
  一日を池のほとりに佇むか鷺の羽根吹く初春の風
  公園の朝の鴉はぬばたまのクロガネモチの朱実つひばむ
  旗もてる人に従ひおほぜいの老人がくる里山の道
  初春の朝日にそよぐ枯草はやがてみどりのいのち芽吹かむ
  ひむがしの雲のはざまに朝日差し西の空より晴れ渡りたり
  来るたびに杭に見かけし翡翠を今朝はまだ見ず薄氷の池
  藪陰をうつる笹子の鋭きこゑに霜柱ふむ里山の道
  水受に薄氷はれる一月の供花鮮しき高瀬家の墓
  東慶寺朝日にかげる板塀の黒きに映ゆる蝋梅の花
  あらためて睦月の墓地を浄めたり落葉吸ひ込むエンジンの音
  松ケ岡夏目漱石参禅の百年記念碑白き字に書く
  寒き日の動かざる身を鞭うちて北鎌倉に足を引きずる
  常ならぬ光まとひて並みよろふ丹沢山塊雪積める朝