筆
中国の殷代にあったことが知られている。筆は毫と管からなり、毫は古来兎の毛のものが賞美されているという。時代が進むにつれ、羊、狼、狸、鼬、馬、豚 などの毛を使うものも現れた。管の方も凝った彫刻をするものなどが作られた。日本には紙と共に大陸から来たらしく、正倉院に伝わる8世紀のものが最も古い。絵と書の筆では違いがある。絵筆は、おおむね毫の根元の管を平たくつぶしてある。近代以降は、万年筆、筆ペン など墨や色液を内蔵した便利な用具が現れた。
剛毛の筆をしたたる墨滴の心ことばの先歩むかな
安永蕗子
よき筆は穂先やさしく芯つよく抑揚自在に紙に踊れり
岡崎桜雲
空海の筆の動きを模する今拡がりて来る爽やかさ何故
大野利夫
空海の筆の跡にし空といふ字のなかに空気の泡が残れる
森岡貞香
鼬毛の細き筆もて書き進む古筆法帖古今和歌集
永田典子
ぐいといま筆をなすりて去りしがにデュフィの海の小品がある
石本隆一
歌人には書をよくする人たちがかなりいる。昔から短冊や色紙に自作の歌を書く機会が多かったからであろう。