天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

櫛(1)

歌麿の浮世絵から

 髪を梳いたり髪の飾りにする道具である。わが国では縄文時代から使われていたという。古来、魔よけの呪具、婚姻の象徴などとされ、もらったり拾ったりすることを忌む風習があった。ツゲ材が良質とされた。江戸時代以後は華美な品が流行、金、銀、べっ甲、象牙螺鈿、ガラス、蒔絵のものなどが出回った。用途によりすき櫛、とき櫛、びん櫛、さし櫛、毛筋立てなどがある。


  梳も見じ屋中(やぬち)も掃かじ草枕旅行く君を斎(いは)ふ
  と思ひて           万葉集・作者未詳


  雨たまる駅の道にうすらなる灯をなげて櫛売れるかな
                     島木赤彦
  その子二十(はたち)櫛にながるる黒髪のおごりの春の
  うつくしきかな           与謝野晶子


  朱の櫛と緋のかんざしと立秋の 風にふかれる、夜の
  電車に                西出朝風


  たへがたく物なつかしき夕ぐれよわが櫛をさへ手にとり
  て見る               三ヶ島葭子