鮑(あわび)
ミミガイ科の巻貝。北海道南部から九州までの波の荒い外海に面し、水深20mまでの岩礁にすむ。産卵期は秋から冬。肉は生で食べられる。酢のものや蒸して食べても旨い。また殻は貝細工やボタンの材料になる。俳句では夏の季語。
腰縄の刀いかつくて鮑取 飯田蛇笏
鮑とり桶をいのちの熊野裏 鈴鹿野風呂
蒸し鮑提げて足柄山を越ゆ 宮岡計次
歯のかけしへなへな口を逃げまはり鮑の貝のすべなくうまし
吉植庄亮
あはびとる蜑(あま)のをとこの赤きへこ 目にしむ色か。
浪がくれつつ 釈 迢空
鳥羽の海(み)に得てし鮑を昨夜(よべ)くひて歯なき歯肉
(はじし)のたゆき今朝かな 尾山篤二郎
裏返されうごめく鮑の軟体を朝市にしばしわれは見て立つ
磯 幾造
冷えしるきこの夜アハビは水槽に緑の卵を咲くごとく産む
中西輝磨
舌の上の鮑のぬめりうねうねと口腔(くち)に満ち来る海の
朝焼け 佐佐木幸綱