天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ブラシの花

鎌倉大町にて

 台風五号のせいで天候不順が続き、外出がおっくうだったが、晴れたので鎌倉に行ってみた。大巧寺、妙本寺、常栄寺、八雲神社、安國論寺などをめぐった。先日見た妙本寺境内の海棠の花は、すでに散り果てて跡かたもない。五月のこの時期には、草叢に咲く著莪の花やどくだみの花に気づくくらいで、木々の新緑に安らぐのみである。ただ、安養院から安國論寺に向かう路傍に、真赤なブラシの花を見つけて驚いた。ブラシの木は、オーストラリアが原産地で、日本には明治時代に渡来し、暖地に植えられている。和名を金宝樹という。


     名札なき草花惜しむ五月晴れ
     楠若葉根方にふたつ手玉石
     手玉石ふたつに楠の若葉影
     枯枝を咥へて鴉飛び去りぬ
     黄菖蒲や仏足石に水溜まり


  マンションのベランダに干す敷布団国道一号線を見下し
  ま白なる観音像の沈黙を見上げて過ぐる通勤電車
  参道の草木を写す集団は老々男女の写真教室
  門前に境内のぞき花なくば次に行くなり鎌倉めぐり
  海棠の花はとつくに散り果てて静寂(しじま)の庭に咲く
  著莪の花


  手玉石ふたつ据ゑたりつばめ来て楠の若葉の空にさへづる
  枯枝をくはへて鴉飛び去ればこげら啼くなり若葉の木蔭
  鎌倉も花の少なき時期なればブラシの朱き花におどろく
  藤棚の若葉の下にわが休む首や額の汗を拭きつつ
  藤棚の花のかをりをなつかしむ庭草叢のどくだみの花
  どくだみの花咲く墓地の片隅に日朗上人御荼毘所の跡
  幼子が走り出せば母親があと追ひかくる狭き歩道を
  下車すればしはがれ声に烏啼くプラットフォームの
  反対側に