天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雨のうた(6)

歌川広重の浮世絵から

 以前にも触れたことがあるが、大西民子の作品は実によく短歌の性質に合っているように思う。10年間別居した後に夫と協議離婚したのだが、それも家庭を裏切った夫に非があるのだが、離婚後もなお夫を待ち続ける心情が、どこかに感じられてなんとも切ない。



  私語のごと雨こまやかにめぐる午後魂濡れて臥すと
  言ふべし               滝沢 亘


  競輪場の雨、削がれたる地の膚(はだ)を砂ながれゆくさま
  見て徒食               塚本邦雄


  降りやまぬ雨の奥よりよみがへり挙手の礼などなすにあらずや
                     大西民子
  いつまでも明けおく窓に雨匂ふもしや帰るかと思ふも寂し
                     大西民子
  雨ながらかすかに虹の浮く空と知りて歩みのあかるむ如し
                     大西民子
  わが限界に素直にありて苦しまむゆふべ冷やかに花にふる雨
                    石川不二子
  竹に降る雨むらぎもの心冴えてながく勇気を思いいしなり
                    佐佐木幸綱
  池の面めがけて注ぐ雨足をえいっ、えいっと見ているこころ
                    佐佐木幸綱