月のうた(13)
今回も比喩の歌が多い。比喩は作者の感性によるから、よく理解できる場合とそうでない場合がある。以下の歌で一見難解に見えて易しいのは、田宮朋子の作品であろう。月の夜に見る柿の裸木の様子を擬人化したのである。作者の思いを込めた作品は、共感するのに時間を要する。蒔田や秋葉の作品がそうである。
一本の木よりも繊く佇ちゐれば月は光の軽羅を賜ふ
築地正子
待つてゐるのがつらいから月に行こ 月に行つたら
月で待つらむ 辰巳泰子
半分は獏に食はれてしまひける月中空に恍とし浮けり
村山美恵子
白塗りの仮面のやうな月かかり虚仮(こけ)の嘆きに
つれなかりけり 蒔田さくら子
来世と過去世を宙に綯い交ぜて圧し光(て)るものを月
と謂うべし 秋葉静枝
月の夜は黒き手が生え指が生え月をつかみぬ柿の裸木
田宮朋子